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『夫よ、死んでくれないか』の音楽が深すぎた|OPとED主題歌に込められた“夫”と“妻”の視点とは?

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『夫よ、死んでくれないか』の音楽が深すぎた|OPとED主題歌に込められた“夫”と“妻”の視点とは?

ドラマ『夫よ、死んでくれないか』を見終わって、
なぜか毎回、胸の奥にざわざわとした何かが残った——。

その“正体”のひとつが、オープニングとエンディングの主題歌だったと気づいた方も多いのではないでしょうか。

オープニングでは、甲本麻矢(安達祐実)がテレビを叩き壊す衝撃の映像。
そこに重なる「潰してみなさい」「恨んでくれ」という挑発的なフレーズ。
一方、エンディングでは、赤い糸や古いフィルム風の映像が流れ、
どこか懐かしくて苦しい、不思議な余韻を残して幕を閉じます。

実はこのふたつの曲は、“夫”と“妻”それぞれの視点から描かれた感情の断片だったのでは?
そして音楽と映像の演出が語っていたのは、物語の“もうひとつの結末”だったのかもしれません。

この記事では、
Lenny code fictionが歌うオープニング「SUGAR」と
さとうもかによるエンディング「愛は罠」に注目し、
歌詞と映像、そして登場人物たちの内面とリンクするポイントを徹底的に読み解きます。

OP主題歌「SUGAR」Lenny code fiction|破壊と支配の叫び

『夫よ、死んでくれないか』のオープニング曲「SUGAR」は、Lenny code fictionによる攻撃的でダークなロックナンバー。
ギターリフの不穏な響きと、吐き出すような歌詞の応酬が、初回から強烈な印象を残しました。

特に印象的だったのが、甲本麻矢(安達祐実)がテレビを叩き壊す冒頭の映像シーン
画面には、夫・光博の姿。そして流れてくるのは──

潰してみなさい
壊しなさい
やれるなら、恨んでくれ


▼ 光博の視点と重なる歌詞の世界

「SUGAR」の歌詞には、一見すると支配や攻撃を思わせるような強い言葉が並びます。

  • 「コントロールできなけりゃ恨んでくる奴ばかり」
  • 「知らないが罰になるぞ」「知性で勝つ」
  • 「甘さでつけ込んでくるSUGAR」

けれど、これを“光博そのものの言葉”と捉えるよりも、
むしろ彼の心の奥底に沈殿していた“言葉にできなかった怒り”や“理想”の裏返しと考える方が、彼の人物像に合っているように思えます。

実際の光博は、暴力的ではありません。
むしろ気弱で、ため込み型。誰にも本音をぶつけられずに、
ただ傷ついて、飲み込んで、ひたすら耐えていた人物でした。

町で肩がぶつかれば「ウザっ」と言われ、
妻に「死ねばいいのに」と言われ、
何も返せず、ただ胸の中でその言葉が澱のように残っていく——
そんな光博の“抑圧された感情”が表現されているようにも感じられます。


▼ 映像演出が強烈に象徴していたこと

麻矢が破壊したテレビに映っていたのは、光博の姿。
つまりあのシーンは、支配の象徴である“夫の物語”を壊す瞬間だったのです。

このシーンは、妻たちの抑圧された感情や「夫」という存在に対する反抗心を象徴しているのかのようでした。

しかし最終回を終えて改めて見てみると、自分の心を壊しにきた麻矢に対しての光博の心の叫びのようにも思えてきます。


▼ 「利己的でいい」という製作者の言葉が刺さる理由

Lenny code fictionのコメントには、こんな言葉があります。

この曲を聴く時は、自分の理想について利己的な考えを持ってもいいと思っています。

この「利己的でいい」というメッセージは、
ずっと“いい人”であろうとして、本音を押し殺してきた光博のような人間に向けられたものなのかもしれません。

  • 本当は怒っていた
  • 本当は悲しかった
  • 本当は「傷ついた」と言いたかった

でもそれを出すと嫌われる。だから我慢する。
そんな人が「自分の理想を利己的に願ってもいい」と許される瞬間が、
この楽曲の本質であり、光博の“臨界点”だったのかもしれません。


🎧 OP主題歌『SUGAR』 by Lenny code fiction(公式MV)

物語の冒頭で毎回流れていたこの楽曲。
ドラマの世界観と主人公・光博の複雑な心情を、
激しいサウンドとメッセージ性の強い歌詞で見事に描いています。

▶️ YouTubeで視聴する(公式MV)

ED主題歌「愛は罠」さとうもか|静かに蝕む愛の中で

エンディングに流れる「愛は罠」は、さとうもかが原作を読み終えた直後に書き下ろした楽曲。
かわいらしくやわらかな歌声とは裏腹に、その歌詞と旋律には、
愛と依存、そして関係の崩壊がもたらす“静かな恐怖”が詰め込まれています。

オープニングが怒りの衝動で始まるなら、
エンディングはその後に訪れる後悔や苦しみと向き合う時間

「終わり」を受け入れるまでの過程が、
歌と映像の“余白”の中で語られていたように感じました。


▼ 「曖昧にしないで」──最初の違和感を無視した末路は“地獄行き”

曖昧にしないで
小さな霧 を無視すれば
ナビは徐々に狂って地獄行き

この歌詞にドキッとした方も多いのではないでしょうか。

「小さな霧」とは、ほんの些細な違和感や違う価値観、沈黙のすれ違いのようなもの。
それを見て見ぬふりしたまま、“家庭”という名の密室で日々を繰り返していくと、
気づかぬうちに、人生の“ナビ”が大きく狂っていく

その行き着く先が「地獄行き」だという言葉に、
ドラマで描かれた夫婦たちの終着点が静かに、しかし強烈に重なってきます。

愛や日常は、きれいごとではない。
“狂い始めたときに気づけなかったこと”こそが、崩壊の起点だったのかもしれません。


▼ 最終回だけに流れた“あの一節”

最終話のエンディングでだけ流れた一節がありました。

全然 きっとどこかの編み目に戻れば
やり直せるでしょう
なんて甘かったね
人間 感情はなにも法則 がない

ここには、“もう戻れない”という苦しさと、
“やり直したかった”という願いの両方が詰まっています。

麻矢の「あんたなんて死ねばいいのに」という感情に任せて言った言葉は本心ではなかったはず。
だけど光博にとっては「好きな人にいわれたからこそ許せない」一言になってしまった。

そして、最終回。
山の中でふたりがテントに泊まる夜、
光博は何も言わず、ほんの少しだけ自分の掛け物を持ち上げるような仕草を見せ、
麻矢もまた、何も言わず、そこに身を寄せました。

君の唇
に触れた夜は遠すぎて
温もりも忘れて

もう一度、温もりに触れたかったのか。
それとも、その温もりが本当にまだあったのか確かめたかっただけなのか。

最終回の光博と麻矢のシーン、その静かなやりとりを知った上で聴く「愛は罠」は、本当に沁みます……。
夫よ死んでくれないか 最終回ネタバレ|夫婦の結末と衝撃の“崖のシーン”とは?

▼ ED映像が描いた“失われた時間”と“体感する記憶”

「愛は罠」の演出は、まるで記憶をなぞるような構成になっていました。

赤い糸のように見えるリボンやレース。
それが絡み合い、結ばれ、またほどけていく。
この動き自体が、「結婚」や「愛の束縛」そして「解放」を象徴しているようにも感じられます。

まるで、「もうほどけてしまった関係」や、「まだ結び直せるかもしれない想い」──
そんな曖昧で、不安定な“関係の境界線を映像にして見せてくれているようでした。

さらに全体を通して漂うフィルムのような古ぼけた質感
これは単なる懐かしさだけでなく、
どこか不気味で、少しざわつくような不安定さを醸し出していて、
ドラマに漂うサスペンスや狂気とも不思議なほど調和していました。

「これは過去の記憶なのか、それともこれから崩れる未来なのか」
そんな判別もつかないまま、
知らず知らずのうちに、“記憶を体感する映像”の中に引き込まれていくのです。


🎧 ED主題歌『愛は罠』 by さとうもか(Official Audio)

さとうもかさんが歌う「愛は罠」は、毎回のエンディングで視聴者の心に静かに染み込む一曲。
歌詞に込められた“愛のゆらぎ”と“すれ違いの痛み”が、ドラマの世界観とぴったり重なります。

▶️ YouTubeで聴く(公式フルバージョン)


📺 ED映像(ドラマ本編のノンクレジットムービー)

それぞれの夫婦のラストに流れる、静かなエンディング映像も必見です。
赤い糸やフィルム調の質感が、失われた時間や関係を“視覚で体感”させてくれます。

OPとEDで浮かび上がる“夫と妻のズレ”とは

ふたりの感情は同じ速度で進まず、いつも少しだけズレていました。その 微妙な距離感 を、主題歌は音と言葉でくっきり描いています。

感情の軸オープニング「SUGAR」(自己防衛エンディング「愛は罠」(諦観
心の状態壊れたくない/外に跳ね返すどうにもならないことを受け入れる/静かに見つめる
行動性遮断・拒絶・爆発沈黙・受容・終わらせる準備
欲望の向き外へ:怒り・理想・反抗内へ:執着・迷い・諦め
キーワード潰してみなさい/恨んでくれ曖昧にしないで/温もりも忘れて
結末への向き合い方まだ壊れる前に反撃する衝動:「好きにはさせないわ 悔しくて恨んでくれ」全てわかった上で自ら幕を引く覚悟:「だからエンドロールを流してもいい?」

両曲を続けて聴くと、

オープニング曲=感情の限界で「壊したい」
エンディング曲=感情を抱いたまま「終わらせる」

という構造になっていることがわかります。

ふたりは違う場所から、同じ終わりに向かっていた、という見方もできるのではないでしょうか。

ドラマを見終えた“今”だからこそ染み渡る、主題歌とエンディングの世界観

物語の結末を知ったあとで改めて聴くと、
OP曲『SUGAR』も、ED曲『愛は罠』も、まるで“物語そのもの”だったと気づきます。
どちらも、初見では気づけなかった深い感情や葛藤が散りばめられていて、
視聴後の余韻とともに、そのメッセージがじわりと浮かび上がってくるのです。

登場人物たちが抱えていた、誰にも言えなかった気持ち。
選び取った未来への覚悟と、取り返せなかった過去への悔い。
それらすべてが、曲の一節一節と静かに響き合い、
視聴者の胸に、そっと“もうひとつの物語”を残してくれるようです。